適正に外用薬を使用し、スキンケアも続けるのがポイント
痒みや湿疹により、熟睡ができない、仕事や学業に集中ができないなどQRL(生活の質)が低下してしまうアトピー性皮膚炎。改善したり悪化したりを繰り返しますが、適正な治療を行い、辛い症状から抜け出しましょう。
監修・取材協力:岐阜大学皮膚科 臨床講師 日本皮膚科学会専門医
高橋 智子先生
アトピー性皮膚炎 -基礎知識
バリア機能を回復し 維持していこう
アトピー性皮膚炎は痒みを伴う湿疹があり、その湿疹が左右対称に現れるのが特徴です。この特徴的な症状が乳児期で2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上、慢性または繰り返し起きる病気です。
急性的に発症する場合は赤みの強い紅斑や丘疹がみられます。慢性的になると炎症した状態が長くなり、苔癬化(たいせんか)といって表皮が厚くなり、外用薬だけでの治療が難しくなります。
年齢による特徴もあります。乳児期は、かさかさした湿疹が顔や頭からはじまり、徐々に体、腕、足に症状が出てきます。幼少期は湿疹が肘裏や膝裏に目立つようになり、さらに、思春期から大人にかけては、上半身に症状が集中してくる傾向にあります。大人になると痒疹型といって、皮膚が厚くなった部分が細かく点々とみられる症状が目立ってくることもあります。
アトピー性皮膚炎のコントロールがうまくできなくなると痒みがありますし、学業や仕事に集中できなくなる、人目が気になって温泉に入れない、睡眠不足になるなど、QOLが低下してしまうことがあります。
ただし、アトピー性皮膚炎だと思っていたら別の病気だった、ということもありますので、皮膚の一部を採取する皮膚生検という検査や血液検査を行うこともあります。
皮膚のバリア機能について
皮膚の表面には、角質層という部位があり、角質層では、セラミドなどの角質細胞間脂質が、外からの異物の侵入を防ぐ役割を果たしていますが、アトピー性皮膚炎の方は、皮膚バリア機能に大切なフィラグリンという物質の発現が低下していて、バリア機能が低下し、皮膚への刺激や、ダニ·ハウスダストなどのアレルギー物質による皮膚炎を起こしやすくなっていると考えられています。
そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、この皮膚バリア機能をいかに速やかに回復させるか、そして良い状態を維持するか、が大切になってきます。
角質層のpHバランスについて
皮膚のpHバランスも重要だと言われています。健康な皮膚のpHは弱酸性の状態ですが、引っ掻いたり、ごしごし擦ったり、洗いすぎたりすることで、角質層のpHが上昇して、アルカリ性に傾くといわれています。そうなると、さらに、バリア機能の低下や炎症を起こしやすい状態になってしまうと考えられています。そのため、せっかく外用薬などで治療をしていても、引っ掻かいたり、洗いすぎたりしていると、症状がなかなかよくならない、ということになりかねません。
アトピー性皮膚炎 -近年の動向
近年、アトピー性皮膚炎に対する免疫学的な理解が進んできており、それにともなって、新しい治療法が出てきています。
中でも、注目されているのが、Th2細胞という免疫細胞です。Th2細胞はサイトカインという物質を出しています。サイトカインは体に必要なタンパク質の一種で、たくさんの種類がありますが、さまざまな病気で、特定の種類のサイトカインが増える性質があることがわかってきています。
アトピー性皮膚炎の場合はTh2細胞が関連する「IL-4」や「IL13」というサイトカインが増えやすいことが分かってきています。これらが増えることによって、かゆみや湿疹の悪化、症状を慢性化させる要因になっています。
アトピー性皮膚炎 -出やすい症状
- 痒み
- 湿疹
- 皮膚がざらざら、ごわごわした感じになる
- 苔癬化
- 紅斑
- 痒疹
- 紅皮症
アトピー性皮膚炎 -治療方法
治療の目標・ゴール
アトピー性皮膚炎の確定診断を行い、重症度を判断してから治療を行います。治療する際は「治療の3本柱」を基本に行います。
薬物療法で炎症を抑えてバリア機能を回復させ、スキンケアをつづけることによって、バリア機能を保っていきます。原因への対策も行い、良い皮膚の状態が維持できるようにします。
治療の3本柱
この3本柱を意識した治療が大切です。
●原因と悪化因子を見つけて対策する
アトピー性皮膚炎では、人それぞれ悪化させる原因が異なります。
例えば、多くの時間を過ごす仕事場の環境が埃っぽい、犬や猫のアレルギーがあるけれども自宅で動物を飼っているなど、湿疹やかゆみを悪化させている原因がないか、など、医師と共に探して、対策を考えていきます。
●スキンケアをする
低下したバリア機能を早く回復させ、維持するためには、日ごろのスキンケアも重要です。体はごしごし擦らず、手で優しく、泡で洗います。湯上がり15分以内に保湿剤を使うと効果的といわれています。湿疹の状態がよくなっても、スキンケアを続けることで、ふたたび悪化することを防ぐ効果が期待できます。
●薬物療法
主に、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏といった、かゆみや炎症をおさえる塗り薬を使用します。最近では、15歳以上の方に適応になりますが、デルゴシチミブ軟膏という新しい塗り薬が使用され始めています。また、塗り薬の治療だけでは、コントロールが難しい場合には、「シクロスポリン」という内服薬や「紫外線治療」、また、最近では、「デュピルマブ」という新しい注射の治療も出てきています。
アトピー性皮膚炎の治療の目標
●日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、①症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持する、➁このレベルに到達しない場合でも、症状は軽微または軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらない状態を維持する、と治療目標を掲げています。
ここでいう“症状がない”、いうのは、「皮膚のかさつき、ざらつきがなく、つるつるで、かゆみがない、赤みのない皮膚の状態になること。」です。
●血清TARC値が低下していること
Th2細胞の出すサイトカインのレベルを測ることができる検査値として、血清TARC値を目安にします。一見、皮膚の状態が良さそうに見えても、血液検査をするとTARC値が高いことがあり、油断していると炎症が出てきてしまいます。
年齢によって正常値は異なりますが、TARC値は、大人の場合、450pg/mlが正常上限値。医師と患者が数値を共有することで、皮膚の状態は良くても数値が高い場合は気をつけて治療をすることができます。
外用療法の実際
・症状が軽い場合はリアクティブ療法
炎症が起こったら外用薬を使用して、炎症が治ったら使用せず、また炎症が出てきたら使用する方法です。
・炎症を繰り返している場合はプロアクティブ療法
まずは寛解導入を行い、炎症が治っても間隔をあけながら、抗炎症外用薬の使用を続け、最終的に保湿剤のみで理想の皮膚の状態にキープできる効果が期待できます。
1~3ヶ月に1回程度、TARC値を測りながら、見えない炎症をぶり返さないよう、使用する間隔を調整します。最近はこの治療法が主流になりつつあります。
ただし、この治療法は、必ず、皮膚科専門医の指導のもと行う必要があります。
[寛解導入]
治療をするうえで、まずはしっかり治すことがポイントになります。外用薬を使って、速やかに痒みや炎症を軽減させることが必要です。治療を始めて2週間〜1ヶ月ほどで炎症が無い程度にするのが理想です。
補助療法として、抗ヒスタミン剤(痒み止め)の使用や、治りが難しい場合、または重症の場合はシクロスポリン(免疫抑制の内服薬)、また、紫外線治療を併用することもあります。
[寛容維持]
症状が治った状態を継続できるよう、抗炎症効果のある塗り薬の使用回数を、医師の指導のもと、毎日から1日おき、3日おき、週2回の使用というように使用回数を減らし(その間、もちろんスキンケアは続けます)、最終的に中止してもスキンケアのみで痒みや炎症が起きない状態を目指します。
塗り薬の使用量について
軟膏やクリームの必要量は1FTUと言い、チューブから大人の人差し指の第一関節分ほど出した量(おおよそ0.5g)を、成人の手のひら2枚分の面積に塗るのが目安です。皮膚の症状が改善しない理由として、塗り薬の使用量が足りていないことも多いです。
ステロイド外用薬は、効果の強さで5段階にランク分け
1群 ステロンゲスト
2群 ベリーストロング
3群 ストロング
4群 マイルド
5群 ウィーク
主にアトピー性皮膚炎で使用されるクラスは2~4。1クラスは痒疹タイプや慢性化している場合、ピンポイントで使用することがあります。
注射薬
生物学的製剤の注射治療薬「デュピルマブ」が使用できるようになりました。「デュピルマブ」は、Th2細胞の出す「IL4」や「IL13」といったサイトカインの働きを直接抑えることで、アトピー性皮膚炎による痒みや炎症を抑え、皮膚症状を改善します。
ただし、15歳以上で、既存の治療で効果が不十分な人(きちんとステロイド外用薬など適切に使用していても)、また、医師がつける重症度スコアを満たす人(中等症以上の人)など適応条件が限られますので、医師と相談の上、治療を行っていく必要があります。
高額な治療薬になりますが、高額療養費制度を使用することにより、自己負担額を抑えられる可能性がありますので、かかりつけの先生にご相談ください。
POEM(Patient-Oriented Eczema Measure)
アトピー性皮膚炎の症状を自己評価するための7項目(痒み、睡眠障害、出血、滲出液、ひび割れ、剥離、乾燥)からなる質問票。合計して8点以上で、中等症以上の症状と評価されます。8点以上ある方は、今の治療を見直すきっかけにされてはいかがでしょうか。