感染力はインフルエンザの約10倍。麻しんウイルスによって引き起こされる感染症
麻しん( はしか )

麻しん(はしか)体調不良

麻しん( はしか )に感染すると90%以上が発症する
赤い湿疹で知られる「麻しん(はしか)」。“子どもの病気”“昔の病気”というのはもはや過去の常識。2024年4月現在、世界的に流行しており、国内でも警戒が高まっています。ワクチンによる予防が最大にして唯一の予防法で

監修・取材協力:あんどう内科クリニック
安藤 大樹 院長

あんどう内科クリニック安藤大樹先生
Contents

麻しん( はしか )-基礎知識

空気感染もするため、手洗いやマスクのみでは予防できません

麻疹(はしか)は、麻しんウイルスによって起きる感染症です。麻疹ウイルスは極めて強い感染力を持っており、感染経路は空気感染のほか、飛沫や接触感染などさまざまです。麻しん(はしか)の患者さんの咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる麻しんウイルスは、感染力を維持したままで1時間以上も空気中を漂い続けることがあります。免疫がない集団に1人の発症者がいた場合、12~14人程度に感染するとされています。これはインフルエンザの約10倍。また、感染した人の90%以上が発症してしまうのも厄介なところです。

麻しん( はしか )-近年の動向

2006年度よりワクチンの2回接種が導入されています

麻しん(はしか)は、かつて「命定めの病」と呼ばれ、免疫力の低い子どもの命を奪う病気として恐れられていましたが、ワクチン接種が進んだ近年の日本では、麻しん(はしか)の流行は少なくなりました。2015年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局により、日本が麻しんの排除状態にあることが認定されました。しかし、2024年4月現在、海外においては麻しん(はしか)の流行が報告されており、麻しんウイルスの国内への流入・感染の拡大が懸念されています。
日本では、2006年度より、1歳児と小学校入学前1年間の小児の2回接種が導入されています。麻しん含有ワクチン(主に接種されているのは、麻しん風しん混合ワクチン)を接種することによって、1回接種で93~95%以上、2回接種で97~99%以上の免疫獲得率が報告されています。

麻しん(はしか)ワクチンイメージ
※ワクチンイメージ(©Medical Terrace編集部)

麻しん( はしか )-症状

風邪のような症状が数日続き、その後、高熱、赤い湿疹が出ます

10~12日の潜伏期間を経て、熱・鼻水・痰・咳など、いわゆる風邪と同じ症状で始まります。一般的に麻しん(はしか)でみられる湿疹は、この段階では見られず、この時期に麻しん(はしか)の診断をすることは困難です。ただ、鼻水や痰の中には麻しんウイルスが含まれているので、うつる可能性が最も高い時期です。
このような症状が2~3日続いた後に一度熱が下がり始めますが、再び40℃近くまで上昇するとともに、全身に小さな赤いプツプツが出てきます。典型的には顔や耳の後ろから始まり、胸・背中・お腹といった体の中心から手足へと広がっていきます。湿疹どうしがくっついて色々なタイプの湿疹になるのも特徴です。解熱後もしばらく感染力が維持されるのも厄介なところです。

麻しん(はしか)

症状の変化

①潜伏期

・体にウイルスが入ってきてから症状が出るまでの期間(無症状)

②カタル期(3~4日)

・熱・鼻水・痰・咳など、風邪と同じ症状が見られる
・鼻水や痰の中に麻しんウイルスが含まれているため、うつす可能性が高

麻しん(はしか)
(©Medical Terrace編集部)
③発疹期(3~4日)

・カタル期の終わりごろに一度熱が下がり、再び40℃近くまで上昇
・顔や耳の後ろあたりから赤い湿疹が見られる

麻しん(はしか)
(©Medical Terrace編集部)
④回復期(7~9日)

・熱が下がるとともに湿疹が消えていく

麻しん( はしか )-注意した方がよい人

ワクチンの普及によりここ数十年は大きな流行が少なくなった結果、麻しん(はしか)に罹ったことがない人や子どもの時に一回しか予防接種を受けていない人が大人になって感染する例が増えてきています。また、妊娠中は麻疹に罹りやすく、死亡率も上昇すると言われています。流産や早産のリスクも高まると報告されています。もちろん、免疫力が落ちているご高齢の方や抗がん剤や免疫抑制剤などを使っている方も注意が必要です。

麻しん( はしか )-治療方法

抗ウイルス薬はなく、対処療法で症状を緩和します

残念ながらインフルエンザのような抗ウイルス薬はありません。症状に合わせて脱水予防の点滴や、解熱剤、咳止めなどで症状の緩和を行います。また、別の細菌感染による肺炎や中耳炎を合併した場合は抗菌薬の投与が行われ、重症化した場合は入院して酸素投与などの呼吸器管理が必要になるケースもあります。

麻しん( はしか )-合併症

命に関わる病気を合併する場合があります

通常の風邪に比べて罹っている間とその後しばらくは免疫力が落ちているので中耳炎や肺炎を発症することがあります。また、頻度は少ないのですが、脳炎や心筋炎といった命に関わる病気になることもあり注意が必要です。 さらに、ごく稀ではありますが、感染から約10年後に記憶障害や痙攣といった症状から始まる「亜急性硬化性全脳炎」という病気を発症することもあります。

麻しん( はしか )-今すぐはじめる予防と対策

麻しん(はしか)は、接触感染、飛沫感染に加え、空気感染もするため、手洗いやマスクのみでは予防ができません。ワクチンによる予防が最大にして唯一の予防法です。ワクチンは接種後2週間後から効いてきますが、はしか患者さんと接触後72時間以内にワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性があります。
ワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されています。一見1回接種でも十分なように感じますが、20人に1人以上免疫を持っていないのは、桁外れの感染力を持つ麻しん(はしか)に対しては不十分です。また、その効果は20年程度で減弱してしまいます。そのため、予防接種を1回しか受けておらず、かつワクチンの効果が落ちている1972年10月1日~1990年4月1日生まれの人が特に注意が必要です。

国の予防接種政策の変遷を受けて年代によって接種状況が異なるため、下図を参照し、必要に応じて接種を検討してください。免疫が不明の場合は、まずは抗体検査をおすすめします。海外から帰国した際は、2週間程度は健康状態に注意しましょう。

麻しん(はしか)

麻しん(はしか)が疑われる場合
受診の際には、まず受け入れ可能かどうかを電話で確認してください。受け入れ可能の場合は「麻しん(はしか)の患者さんと接触した可能性があり、いつ頃からどんな症状がある」と伝えます。そして、受診に際してはバスや電車など公共交通機関の利用は避け、人が集中する場所(スーパー、コンビニなど)には極力立ち寄らないようにしましょう。

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