原因不明の体調不良なら、甲状腺異常かも!?
甲状腺は、「元気の源」である甲状腺ホルモンを産生する大切な臓器です。正常に機能していないと、さまざまな症状が出現します。症状から他の病気と間違われる場合もあるため、専門医のいる病院を受診しましょう。
監修・取材協力:日本内分泌学会専門医
日本甲状腺学会専門医
名古屋甲状腺診療所(日本甲状腺学会認定専門医施設)
副院長 大江 秀美 先生
甲状腺の病気 -基礎知識
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形の器官で、甲状腺ホルモンをつくり、貯蔵し、血液中に分泌する内分泌器官です。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促す役割があり、人間の生命維持に欠かせない重要なホルモンです。甲状腺が正常に機能しないと、甲状腺ホルモンが過剰や不足となり、身体的、精神的にさまざまな症状がでます。ホルモンが増加すると体重減少、疲れやすい、動悸、息切れ、イライラ感などの症状、ホルモンが不足すると体重増加、物忘れ、むくみなどの症状がでます。そのため、心臓の病気、糖尿病、更年期障害、うつ病、認知症などの病気と間違われることもあり、診断が遅れる場合もあります。また、単なる体調不良や加齢によるものと自己判断し、病気に気が付かない人もいます。
甲状腺の病気は20~50歳代の女性に多く、機能異常、腫瘍の病気、炎症の病気の3種類に分けられます。機能異常の病気には、甲状腺ホルモンが過剰になる「バセドウ病」、ホルモンが不足する「橋本病」、腫瘍の病気は「結節性甲状腺腫」と総称されますが、結節には良性腫瘍と悪性腫瘍(甲状腺がん)があります。炎症の病気では亜急性甲状腺炎が代表的です。
甲状腺の病気の多くは慢性のため、気長に付き合っていく必要がありますが、正確な診断と適切な治療を行うことで、病状を良好に保つことはできます。甲状腺機能異常の病気でもホルモンを正常に保っていれば、通常の生活が可能です。
甲状腺の病気かな?と疑う症状がある場合は専門医を受診し相談してみましょう。
甲状腺の病気 -近年の動向
2011年の福島の原発事故の際に、1986年のチェルノブイリ原発事故で小児甲状腺がんが増えた歴史的経験から、福島でも子どもの甲状腺に異常がないかを調べる検査が行われ、テレビなどのメディアによって甲状腺がんが知れ渡ることとなりました。それにより、最近では検診や人間ドックなどの際に、オプションによる血液検査や頚部の超音波検査で甲状腺の病気が発見できるようになり、早期において治療が始められるようになりました。
甲状腺の病気 -出やすい症状
- 甲状腺機能亢進症:頻脈、動悸、イライラする、多汗、体重減少
- 甲状腺機能低下症:気力がなくなる、むくみ、寒がり、コレステロール高値
- 甲状腺腫瘍:前頚部のはれ
甲状腺の病気 -考えられる主な種類と特徴
甲状腺ホルモンが過剰になる
バセドウ病
30~40歳代に多発し、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンを作りすぎている状態)を起こす代表的な病気。
「メルセブルグの3徴」と呼ばれる「甲状腺の腫れ」「眼症状(眼球突出など)」「甲状腺機能亢進症状(動悸、体重減少、手のふるえ、疲れやすい、汗をかくなど)」の3つの症状が特徴的ですが、全ての症状がそろって出現する人は少なく、性別や年齢などでも症状の現れ方は異なります。特に子どもの場合には成績の低下、落ち着きのなさや集中力低下などの情緒や行動の変化が身体症状より目立つ場合もあります。
甲状腺ホルモンが不足する
橋本病
甲状腺内に慢性の炎症が起こる病気で慢性甲状腺炎とも呼ばれています。炎症の病気ですが、痛みや熱はありません。甲状腺が全体的に腫れるびまん性甲状腺腫が特徴的な症状ですが、人によって腫れの程度は異なり、小さく目立たない人もいます。炎症の程度によって甲状腺の機能は異なり、橋本病でも甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが不足する状態)の人から機能正常の人がいます。甲状腺機能低下症になると体の怠さ、むくみ、寒がり、無気力、便秘、体重増加などの症状があらわれ、血液検査でもコレステロール値が高くなることがあります。機能正常の人は前記のような低下症状はありません。
甲状腺に良性のしこりができる
甲状腺良性腫瘍(こうじょうせんりょうせいしゅよう)
結節性甲状腺腫は甲状腺にしこり(結節、腫瘍)ができる病気で、しこりの種類としては、良性のものと悪性のもの(がん)に分類されます。腫瘍が大きくなると前頸部の一部の腫れが目立つようになります。良性の甲状腺良性腫瘍には3タイプあり、甲状腺の中に腫瘍が一つであれば「腺腫」、複数ある場合は「腺腫様甲状腺腫」腫瘍の内部が液体のタイプを「のう胞」と呼びます。
※甲状腺の悪性腫瘍のほとんどが甲状腺がんです。その大部分を占めるのは「乳頭がん」になり、その他には「濾胞(ろほう)がん」「髄様がん」「低分化がん」「未分化がん」があり、5種類あります。
甲状腺の病気 -治療方法
甲状腺機能亢進症の治療としては、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬(抗甲状腺薬)の内服、放射線治療、手術があります。甲状腺機能低下症の治療は甲状腺ホルモン薬の服用です。いずれも薬の治療は長期に続けることが多く、中止するかどうかは主治医の判断となります。甲状腺の腫瘍は、基本的には手術で治療します。
甲状腺の病気 -今すぐはじめる予防と対策
現時点では効果的な予防法はありません。甲状腺疾患がある人は下記のような健康的な生活をおくることが大切です。
甲状腺の病気 -自己チェック
【[間違われやすい病気]の症状】
バセドウ病のセルフチェック
□ 動悸や息切れ、頻脈や不整脈がある【心臓病】
□ 体重が減る、のどが渇く【糖尿病】
□ 最高血圧が高くなる【高血圧症】
□ 汗が異常に多い、のぼせやすい【更年期障害】
□ 微熱や下痢が続く【大腸の病気】
□ イライラする、興奮しやすい【躁うつ病】
□ 月経異常【婦人科系の病気】
□ 手のふるえ【神経系の病気】
□ 疲れやすい【貧血など】
橋本病のセルフチェック
□ むくむ(顔、全身)【腎臓病や心臓病】
□ 基礎体温の低下【冷え性】
□ 倦怠感、疲労感、意欲の低下、眠気【更年期障害・うつ病】
□ 月経異常【更年期障害や婦人科系疾患】
□ 集中力・記憶力の低下【認知症】
□ 声が低くなる【耳鼻咽喉科の病気】
□ 抜け毛【脱毛症】
□ 手足がしびれる【末梢神経炎】
□ 便秘【大腸の病気】
※チェックが多数なら、甲状腺の検査を行いましょう!