立っている時に足のつけね(鼠径部)がポッコリと膨らむ 鼠経ヘルニア 。外ヘルニアの8割~9割を占めています。中でも最も多い「外鼠径ヘルニア」は、体の右側で多く見られ、内鼠径輪を通って腹壁の外側に出現します。
監修・取材協力:医療法人いまず外科
今津 浩喜 院長
この記事をまとめると
- 腹膜や腸の一部が、本来あるべき場所から鼠径部の皮膚の下に出てくる病気
- 一般的には「脱腸」と呼ばれている
- 立っている時に脚のつけね(鼠径部)がポッコリと膨らみ、無症状の場合が多い
- 嵌頓(かんとん)になると、腸閉塞や腹膜炎などを引き起こし命の危険性も
- 加齢によって増加し、40代以降の男性に多く発生
- 治療方法は手術のみ
- 日帰り手術が可能
鼠径ヘルニア −基本知識
本来、お腹にあるはずの腹膜や腸の一部が、主に鼠径部(太ももの付け根付近のお腹部分)の間から皮膚の下に出てくる病気で、一般的には「脱腸」と呼ばれています。
鼠経ヘルニアの中でも最も多い「外鼠径ヘルニア」は、体の右側にやや多く見られ、内鼠径輪を通って腹壁の外側に出現します。また、内鼠径輪を通らずに腹膜を突き破り出現したものを「内鼠径ヘルニア」と呼び、高齢者に多くみられます。
良性の病気ですが、長期放置すると嵌頓(かんとん)になり、緊急手術が必要になることがあります。
症状
腹膜が伸びてできたヘルニア嚢が形成され、立っている時に脚のつけね(鼠径部)がポッコリと膨らみます。症状としては無症状の場合も多く、突出した膨らみは、横になると引っ込んだり、手で押し戻したりできますが、戻すなどの症状を繰り返すことで、穴が徐々に大きくなり、痛みを感じるようになることがあります。
悪化しても放置していると、引っ込まなくなる場合があり、この「嵌頓(かんとん)」という状態になると、血行障害を起こして腸閉塞や腹膜炎などを引き起こし、命の危険性も出てきます。
原因
子どもの場合は、ほぼ先天性のものですが、大人の場合は後天性のもので、慢性的に腹圧がかかる仕事やスポーツ、加齢によって増加するといわれ、40代以降の男性に多く発生するとされています。
40代以降の発生では、主に職業が関係していることが指摘されており、腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦も要注意です。
検査方法
多くは、問診、視診、触診による診察のみで診断されます。診察で判断しかねる際には、腹部エコー検査を行います。手術前提の場合には、詳しく調べるために、腹部のCT、MRIの検査を行います。
鼠径ヘルニア −治療方法
大人の場合、治療方法は手術のみになります。薬や運動療法では治りません。手術は、人工補強材を使ったテンションフリー法が主流となっています。日帰り手術や1泊入院での治療によって、早期社会復帰が可能となっています。
ヘルニアバンド(脱腸帯)の使用は、一時的な対症療法で、押さえているだけなので、バンドを外すとヘルニアが飛び出してきます。バンドを長期にわたって使用すると、圧迫により組織が硬くなったり、癒着などの皮膚障害や内臓の損傷を起こして手術の妨げになることがあるため、近年では推奨していません。
鼠径ヘルニア−今すぐはじめる予防と対策
日帰り手術の翌日から日常生活は、ほぼ可能ですが、1週間程度は無理せず過ごしましょう。2~3週間は下腹部に力が加わる動作や、激しい運動は避けてください。食生活などにも気を付けて、便秘にならないように心がけることも大切です。
また、片側のヘルニアを手術した後、反対側で発症するケースもあるので、腹圧がかかることをする場合は注意してください。
鼠径ヘルニア になりやすい人−自己チェック
□ 40歳以上の男性
□ 咳をよくする
□ 過激な運動をする
□ お腹に力がかかる仕事をしている
□立ち仕事に従事している
□便秘症
□たばこを吸う
□喘息の人
□太っている
□妊娠している
□慢性肺疾患がある
1つでもあったら、要注意!
成人の腹部の ヘルニア ヘルニア には様々な種類があり、発生部位によっては「脱腸」「でべそ」などの俗名も。ぽっこりと出ても、押し戻すと収まったりするため、放置しがちですが、悪化する前に受診し、現状を把握することが大切です。治療方法は手術のみ。専門病院では日帰り手術が可能。
臍ヘルニア -さいヘルニア- 臍ヘルニア の「臍(さい)」は臍(へそ)の緒(臍帯)が閉じた跡であり、元々弱いため、肥満や妊娠による膨隆、腹水(お腹に水がたまる病気)などの持続的な腹圧の上昇に伴って発生しやすくなります。
大腿ヘルニア -だいたいヘルニア- 大腿ヘルニア は鼠径鼠径部の下の脚に繋がる太もも部分(大腿)に小さな膨らみができます。大腿輪と呼ばれる脚につながる血管や神経が通る穴を塞いでしまうため、最も嵌頓(かんとん)しやすく、注意が必要です。疼痛を伴い、中年以降の痩せた女性(特に経産婦)に多く見られます。
腹壁瘢痕ヘルニア -ふくへきはんこんヘルニア- 腹壁瘢痕ヘルニア とは開腹手術や外傷後の傷跡(瘢痕)が大きく膨らむ状態を指します。立った時、咳やくしゃみ、排便時などの腹圧がかかった時に発生することが多いヘルニアです。腹部の手術の合併症のひとつで、術後10年間で約1割の人に発症するといわれています。